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名古屋地方裁判所 昭和42年(行ウ)65号 判決

名古屋市中区東橘町二丁目六六番地

原告

田島儀兵衛

右訴訟代理人弁護士

奥村仁三

名古屋市中区三の丸三丁目三番二号

原告

名古屋中税務署長

右指定代理人

土田茂生

服部勝彦

服部守

加藤元人

坪川勉

内山正信

右当事者間の昭和四二年(行ウ)第六五号所得税更正処分等取消請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者双方の求めた裁判

(原告)

一、被告が昭和四〇年二月二日付で原告に対しなした昭和三八年分所得税の更正および過少申告加算税の賦課決定はこれを取消す。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

(被告)

主文同旨

第二、当事者双方の主張

一、請求原因

(一)  原告は、昭和三九年三月一六日、被告に対し、総所得金額を一、八三二、三一八円、申告納税額を二七四、〇六〇円とする昭和三八年分所得税の確定申告をし、更に、これについて、同年一二月七日、総所得金額を二、一四四、八一八円、申告納税額を三七八、五七〇円とする修正申告をなした。

(二)  ところが、被告はこれに対し、昭和四〇年二月二日、総所得金額を一三、四一五、九八二円、所得税額を五、八四五、八五〇円とする更正ならびに過少申告加算税二七三、三五〇円の賦課決定をなした(以下これを本件更正等という)。

(三)  原告はこれに対し昭和四〇年二月二四日被告に対し異議の申立をしたが、被告はこれを棄却したので、更に同年六月一八日名古屋国税局長に対し審査請求をしたところ、同局長は昭和四二年八月二二日本件更正等の一部を取消し、総所得金額を九、五四〇、六三二円、所得税額を三、七二〇、八〇〇円、過少申告加算税額を一六七、一〇〇円とする旨の裁決をなし、その旨同年八月二八日原告に通知した(以下これを本件裁決という)。

(四)  しかしながら、本件更正等は、本件裁決による一部取消の後においても、なお過大なものであつて、係争年たる昭和三八年中において、原告には本件更正等の根拠となつたような所得の存した事実はないから、その取消を求めるべく本訴に及んだ。

二、請求原因に対する認否

請求原因(一)ないし(三)の事実はいずれも認める。

同(四)の主張は争う。

三、被告の主張

(一)  係争年たる昭和三八年における被告の所得金額の内訳は、次のとおりである。これによれば、本件裁決により一部取消された後の本件更正等は、いずれも適法正当なものである。

(1) 配当所得金額 二二五、〇〇〇円

(2) 不動産所得金額 九三一、三八二円

(3) 給与所得金額 四六八、五〇〇円

(4) 雑所得金額 七、九一五、七五〇円

以上合計した総所得金額 九、五四〇、六三二円

すなわち、原告は昭和三八年において、穀物取引の仲介を業とする訴外晃和商事株式会社の代表取締役であるかたわら、訴外株式会社田島商店の役員を兼ね、右各会社から給与を得、原告所有の宅地建物の賃貸をしていたほか、不動産取引の仲介をなし、給与所得、配当所得、不動産所得のほか、不動産取引仲介手数料等により雑所得のあつたものである。

(二)  雑所得金額の内訳とその内容

(1) 雑所得金額の内訳は、別表二記載のとおりである。

(2) 原告は昭和三八年二月ころ、訴外大垣共立銀行(以下訴外銀行という)から委任をうけて、その菊井町支店店舗用地および尾頭橋支店駐車場用地の買収のため仲介斡旋をし、別表一記載のとおりの不動産売買契約を成立させた。

原告は、右買収事務の処理にあたり、その事務の一部を訴外明治不動産株式会社(以下明治不動産という)に分担させたが、物件の選定については、訴外銀行の指示をうけて物色し、地主との買収交渉を遂げたが、物件の買収に要する資金および諸経費は、斡旋価額および斡旋料として、予め訴外銀行から受け取り、そのうちから売主に対する支払資金に充て、これを必要経費として支出し、右斡旋価額および斡旋料から必要経費を差し引いた差額八、九〇九、六三〇円を委任事務処理に対する報酬(斡旋料)として取得した。

(三)  右の所得を雑所得とする根拠

原告は、前記のとおり、訴外晃和商事株式会社の代表取締役であるかたわら、訴外株式会社田島商店の役員を兼務するものであり、右の所得は、他人の不動産取得の斡旋とそれにともなう委任事務処理の報酬たる性格をもち、営利を目的として継続的行為により取得した所得ではないから、所得税法(昭和二二年三月三一日法律第二七号、以下同じ。)九条一項四号の事業所得には該当せず、同条同項一〇号の雑所得に該当するものである。

なお、菊井町支店店舗用地については、形式上いずれも旧所有者から一旦原告に名義変更後、更に原告から依頼者たる訴外銀行に名義が変られているが、これはあくまでも形式を仮装したものにすぎず、実質的には各旧所有者と訴外銀行の直接取引とみるべきものであるから、右所得を同条一項八号の譲渡所得とみるべきものでもない。

四、被告の主張に対する原告の認否および主張

(一)  被告の主張(一)の事実中、雑所得金額は否認する。

同(二)の事実中、原告が同三八年二月ころ、訴外銀行から委任を受け、菊井町支店店舗用地として、被告主張の土地買収の仲介斡旋をし、被告主張のとおりの売買契約を成立させたことおよび、訴外銀行から右土地買収に関する斡旋価額および斡旋料として、別表二の(一)の(A)記載の六〇、九一七、〇五〇円を受領したことは認めるが、原告が右土地買収のため支出した必要経費が被告主張の金額であることおよび、原告が訴外銀行からその尾頭橋支店駐車場買収の委任をうけ、その仲介斡旋をして被告主張のような売買契約を成立させたことは否認する。

(二)  尾頭橋支店駐車場用地の買収は、訴外西田知郎が訴外銀行の委任をうけてなしたものであつて、原告はなんら関係がない。

(三)  原告が菊井町支店店舗用地買収のため支出した必要経費は、被告主張の五八、八七一、四二〇円に止らず、それより多額の六〇、九三九、二〇〇円である(被告主張の必要経費の内訳中、別表二の(二)の(A)の(イ)(ロ)合計四六、九一四、三〇〇円は認めるが、その余は否認する)。右金額は、すべて原告が明治不動産との折衝の過程で同会社に対し支出したものである。

(四)  訴外銀行菊井町支店店舗用地買収事務処理に関する原告の収支は、二二、一五〇円の損失であり、その明細は別表三のとおりである。

(五)  更に、右の損失以外にも、原告は係争年中に、不動産売買に関し、四九七、〇〇〇円の損失を蒙つている事実があるから、これを総所得金額算出上通算すべきである。

しかるに、被告はこの損失を考慮することなく、本件更正等をなしたもので、この点からも本件更正等は違法なものである。

即ち、原告は本件係争年中に永安寺ビル地下にある「源平」と称する家屋を売買したのであるが、その計算関係は次のとおり四九七、〇〇〇円の損失であつた。

(1) 収入 二、五二四、五〇〇円、但し、「源平」を訴外加藤ひさに売却した価額である。

(2) 支出 合計三、〇二一、五〇〇円

(イ) 二、七〇〇、〇〇〇円、但し、「源平」を訴外大鹿みつえから買つた際の取得価額である。

(ロ) 一二一、五〇〇円、但し、買入後売却までの六か月間に永安寺ビル所有者に支払つた賃料である。

(ハ) 二〇〇、〇〇〇円、但し、「源平」売却の際仲介した明治不動産に支払つた仲介手数料である。

五、原告の主張に対する被告の反論

(一)  尾頭橋支店駐車場用地の権利移転関係を形式的にみると、登記簿上は旧所有者の中川はな子から西田に、更に西田から訴外銀行にそれぞれ所有名義が移転されており、登記簿上に原告の名義は現われておらず、また、右物件の売買契約書をみても、中川はな子と西田との間に契約がなされてはいるが、以下に述べる事情からうかがわれるように、右の物件の買収斡旋事務は、原告の仲介によつてなされたものであつて、西田はたまたま原告が右事務の遂行を依頼した明治不動産の社員である関係で、中川はな子と交渉をもつたものにすぎない。

(1) 中川はな子への代金支払の資金関係をみると、中川はな子と西田間の売買契約締結の前日、訴外銀行から原告に宛て六、六〇〇、〇〇〇円の通知預金が設定され、これが代金として支払いにあてられており、

(2) 訴外銀行は昭和三八年八月二一日原告に対し敷地斡旋手数料二六四、〇〇〇円を支払つており、

(3) 西田が中川はな子との間に売買契約をした形式を踏んだため負担した不動産取得税六、一二〇円も、結局原告が支弁している。

(二)  菊井町支店店舗用地に関する原告主張の別表三の支出内訳欄記載の明治不動産への支払い経費のうち、昭和三八年五月三一日の一〇、〇〇〇、〇〇〇円の支出は、原告が明治不動産を通じて愛知陸運に手附金として支払つた金員をさすものと解されるが、そうとすれば、同年二月二六日の五、〇〇〇、〇〇〇円、五月三〇日の三、〇〇〇、〇〇〇円計八、〇〇〇、〇〇〇円は重複して経費に計上されていることになる。

即ち、右の八、〇〇〇、〇〇〇円は原告から明治不動産に預けたものであり、これと別途の預け金二、〇〇〇、〇〇〇円を合せた一〇、〇〇〇、〇〇〇円が、同年五月三一日明治不動産から愛知陸運に支払われたのである。

(三)  「源平」売買にかかる損失の主張については争う。

第三、証拠

(原告)

一、甲号証 一、二の一ないし四、三の一ないし四、四の一ないし一〇、五の一ないし三、六、

二、人証 証人島崎莫三、大鹿光江、原告本人

三、乙号証の認否 一の二、二、六、七、九ないし一一の成立はいずれも認め、その余の各号証の成立はいずれも不知。

(被告)

一、乙号証 一の一、二、二ないし一一、一二の一、二

二、証人 松井清、坪川勉、伊藤体治、熊崎久平

三、甲号証の認否 一、二の一ないし四、四の二ないし一〇の成立はいずれも認め、その余の各号証の成立はいずれも不知。

理由

一、請求原因(一)ないし(三)の各事実は当事者間に争いがない。

原告が昭和三八年において、穀物取引の仲介を業とする訴外晃和商事株式会社の代表取締役であるかたわら、訴外株式会社田島商店の役員を兼ね、右各会社から給与を得ていたほか、原告所有の宅地建物の賃貸をなし、給与所得、配当所得、不動産所得を得ていたこと、昭和三八年における原告の所得金額中

配当所得について 二二五、〇〇〇円

不動産所得について 九三一、三八二円

給与所得について 四六八、五〇〇円

の各所得があつたことは、原告が明らかに争わないので、自白したものとみなす。

二、雑所得金額

(一)  訴外銀行の原告に対する土地買収の委任

(1)  原告が昭和三八年二月ころ、訴外銀行から委任をうけて、その菊井町支店店舗用地として、別表一物件欄(1)ないし(5)記載の各土地買収の仲介斡旋をし、同表記載のとおりの売買契約を成立させたことは当事者間に争いがない。そして、原告が右買収事務の処理にあたり、その一部を明治不動産に分担させたこと、物件の選定については訴外銀行の指示をうけて物色し、売主との交渉をなしたこと、物件の買収に要する資金および諸経費は、斡旋価額および斡旋料として、予め原告が訴外銀行から受け取り、そのうちから売主に対する支払資金に充て、これを必要経費として支出し、右斡旋価額および斡旋料から必要経費を差引いた差額を、委任事務処理に対する報酬(斡旋料)として取得したことは、原告が明らかに争わないからこれを自白したものとみなす。

(2)  証人松井清の証言によつて真正に成立したことの認められる乙一号証の一、成立に争いのない乙二号証、証人坪川勉の証言によつて真正に成立したことの認められる乙三号証、証人伊藤休治の証言によつて真正に成立したことの認められる乙四、五、八号証、いずれも成立に争いのない乙六、七、一一号証、一二号証の一、二および証人松井清、同坪川勉、同伊藤休治の各証言ならびに原告本人尋問の結果(但し、後記措信しない部分を除く)を総合すれば、訴外銀行は菊井町支店の場合と同じく、昭和三八年八月ころ、原告に対し、尾頭橋支店駐車場用地買収について、物色ならびに買入れ方を依頼したところ、原告は訴外中川はな子から別表一物件欄(6)記載の土地を右用地として買入れようとしたが、原告が直接交渉すると値上りすることをおそれ、かねて知合でそのころ明治不動産栄支店に勤務していた西田知郎に買収の交渉を依頼し、西田は中川はな子と交渉し、同年八月二〇日右土地を代金五三〇万円で買受ける契約が成立し、その代金は西田が原告から受け取り、中川に支払つたこと(契約成立時手附金一〇〇万円、同年九月一八日残金四三〇万円現金授受)、売買契約は中川と西田の間で売買が成立し、その旨の登記を経由したが、これは名義上そのようにしたものにすぎないこと、そして、原告は明治不動産に対して、仲介手数料として二六四、〇〇〇円を支払つたが、その領収書をみると、同年九月二〇日付で明治不動産から訴外銀行にあて四、〇〇〇円の、更に同年九月二五日付で明治不動産から原告にあて二六〇、〇〇〇円の、それぞれ尾頭橋支店駐車場用地斡旋料の領収書が発行されているが、これらの領収書はいずれも訴外銀行が所持していること、右用地の買収代金の旧所有者中川はな子への支払の資金関係は、訴外銀行が昭和三八年九月五日原告のため、原告名義で六、六〇〇、〇〇〇円の通知預金を設定し右通知預金は同年九月一八日解約され、訴外銀行から原告に対し営業用土地代金として右金員が支払われたこと、右用地につき形式上の買受人となつたことによつて西田に課せられた不動産取得税六、一二〇円は、原告がこれを支払つており、西田の負担とはなつていないこと、同三八年九月二一日右用地に関する訴外銀行からの斡旋料二六四、〇〇〇円の支払いがなされたが、これは西田に対してではなく、原告に対してなされていることが認められ、原告本人尋問の結果中以上の認定に反する部分は前顕証拠に照らして採用できず、他にこの認定を覆すに足る証拠はない。

右認定の事実によれば、原告は訴外銀行からその尾頭橋支店駐車場用地買収の委任をうけ、その委任に基づいて仲介斡旋をし、別表一の(6)記載のとおりの売買契約を成立させたものであることを推認するに十分である。

(二)  総収入金額

(1)  菊井町支店店舗用地関係

原告が訴外銀行から、右店舗用地買収に関する斡旋価額および斡旋料として、別表二の(一)の(A)記載のとおり、六〇、九一七、〇五〇円を受領したことは、当事者間に争いがない。

(2)  尾頭橋支店駐車場用地関係

前顕乙一号証の一、二号証、四号証、五号証および前記二の(一)の(2)の認定事実によれば、原告が訴外銀行より尾頭橋支店駐車場用地の斡旋価額および斡旋料として合計六、八六四、〇〇〇円を受領した事実が認められ、この認定を覆すに足る証拠はない。

(3)  以上(1)(2)を合計すると、原告の総収入金額は、六七、七八一、〇五〇円である。

(三)  必要経費

(1)  菊井町支店店舗用地関係

別表一の(2)ないし(5)記載の物件の買収対価として、別表二の(2)の(A)の(イ)記載のとおり、原告より愛知陸運に対し、三六、一九七、五〇〇円が、また、別表一の(1)記載の物件の買収対価として、別表二の(二)の(A)の(ロ)記載のとおり、原告から沢田幸七に対し、一〇、七一六、八〇〇円がそれぞれ支払われたことは当事者間に争いがないところであり、弁論の全趣旨によれば、同(ハ)協力費三、五二三、一〇〇円、(ニ)仲介手数料二、五〇一、八〇〇円、(ホ)登録税その他の費用三六二、一〇〇円が原告から支出されたことが認められる。したがつて、これらの合計額五三、三〇一、三〇〇円を菊井町支店店舗用地関係の必要経費総額と認めることができる。

原告は、別表三記載のとおり明治不動産に支出した金額すべてが右用地関係の必要経費として支出されたものであり、その総額は右用地関係の総収入金額六〇、九一七、〇五〇円(前記争いのない事実)を越える合計六〇、九三九、二〇〇円であつて、かえつて二二、一五〇円の欠損である旨主張し、証人島崎英三の証言により真正に成立したことの認められる甲四号証の一および成立に争いのない甲四号証の二ないし一〇は、明治不動産に対し右主張のような支出があつたことを窺わせるものであり、原告本人尋問の結果中には右主張に副う部分がある。

しかし、原告が明治不動産への支出として主張するもののうち、

(イ) 昭和三八年二月二六日の五、〇〇〇、〇〇〇円

(ロ) 同 年五月三〇日の三、〇〇〇、〇〇〇円

については、甲四号証の二、三によると、原告は右(イ)(ロ)のとおり、菊井町支店店舗用地関係の預り金として、明治不動産に預り金の支出をしたことが認められ、この認定に反する証拠はない。しかも、証人熊崎久平の証言によつて真正に成立したと認められる乙一二号証の一、二ならびに同証人および証人島崎英三の各証言によれば原告は昭和三八年五月三一日一〇、〇〇〇、〇〇〇円を支出し、そのうち八、〇〇〇、〇〇〇円は前記(イ)(ロ)に充当したことが認められる。そうすると、結局、原告の主張は同一の金銭(八、〇〇〇、〇〇〇円)を、明治不動産に預り金として支出した時点と、明治不動産から支出した時点とに重複して必要経費として主張しているものといわざるをえない。従つて、仮に原告から明治不動産および沢田幸七に支出された金額のすべてが、菊井町支店店舗用地関係の必要経費として費消されたとしても、その支出金はせいぜい原告主張の六〇、九三九、二〇〇円から重複計上分の八、〇〇〇、〇〇〇円を差引いた五二、九三九、二〇〇円にすぎないこととなり、被告主張の必要経費を下まわることになる。したがつて、菊井町支店店舗用地関係の必要経費は、五三、三〇一、三〇〇円であることが認定される。

(2)  尾頭橋支店駐車場用地関係

いずれも成立に争いない乙六、七、一一号証、前掲乙一号証の一、三ないし五号証、証人伊藤休治の証言によつて真正に成立したものと認められる乙八号証を総合すると、原告には以下のとおりの合計五、五七〇、一二〇円の必要経費の支出のあつた事実が認められ、この認定を左右するに足る証拠はない。即ち、

(イ) 別表一の(6)記載の物件の旧所有者中川はな子に支払つた買収代金五、三〇〇、〇〇〇円

(ロ) 仲介手数料として明治不動産に支払つた二六四、〇〇〇円

(ハ) 西田に賦課されたものを肩がわりした不動産取得税六、一二〇円

(3)  以上(1)(2)を合計すると、菊井町支店店舗用地関係、尾頭橋支店駐車場用地関係を通じての原告支出の必要経費は合計五八、八七一、四二〇円である。

(四)  総収入金額と必要経費の差引金額

訴外銀行の依頼に応じその菊井町支店店舗用地および尾頭橋支店駐車場用地買収事務に従事したことによる原告の収益が、総収入六七、七八一、〇五〇円から必要経費五八、八七一、四二〇円を控除した差額八、九〇九、六三〇円となることは、計数上明らかである。

(五)  前記一の事実ならびに証人松井清の証言および原告本人尋問の結果によれば、原告は前記会社の会社役員が本業であつて、不動産取引の仲介は、本業ではなく、その事業につき営利を目的として継続して行つていたわけでもないことが認められるので、右所得の種類は雑所得にあたるものと認められる。

三、以上のとおり、昭和三八年における原告の雑所得金額は、八、九〇九、六三〇円ということになるから、被告が裁決後の一部取消において、雑所得金額を七、九一五、七五〇円としたことは正当である。

四、「源平」の売買による損失

原告本人尋問の結果により真正に成立したことの認められる甲五号証の一ないし三、六号証、証人大鹿光江の証言および原告本人尋問の結果によると、原告は昭和三八年中において、訴外福岡某から、永安寺ビル地下にあるお茶漬屋「源平」(床面積約二六・四平方メートル)の賃借権(什器など一切を含む)を買受け(契約締結には、賃借人の代理人である訴外大鹿光江が当つた)、更にこれを訴外加藤ひさに売却したが、その間買受代金二、四〇〇、〇〇〇円、不動産業者に対する買受の仲介手数料三〇〇、〇〇〇円、買入後売却までの六か月間同ビル所有者に支払つた賃料合計一二一、五〇〇円、売却の仲介手数料二〇〇、〇〇〇円合計三、〇二一、五〇〇円を支出し、他方売却代金二、五二四、五〇〇円の収入を得、その結果差引き四九七、五〇〇円の損失を生じたことが認められ、これに反する証拠はない。

しかし、右四九七、〇〇〇円の損失は、譲渡所得の計算上生じたものと解されるところ、これを所得税法に従い損益通算すると、譲渡所得から生じた損失は雑所得から控除すべきであるから、雑所得につき、本件更正等(但し本件裁決による一部取消後のもの)による雑所得金額七、九一五、七五〇円に比し、一〇〇万円近い多額にあたる八、九〇九、六三〇円の所得があつたものと認定される結果、八、九〇九、六三〇円から四九七、〇〇〇円を控除しても、なお七、九一五、七五〇円を上まわり、係争年における原告の総所得金額は、いぜんとして裁決により一部取消後の額である九、五四〇、六三二円よりは多額のものである。

五、以上のとおりであるから、本件更正等は適法であつて、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西川豊長 裁判官笹本淳子、同須藤浩克は転任のため署名押印することができない。裁判長裁判官 西川豊長)

別表一

不動産売買契約明細表

〈省略〉

〈省略〉

別表二

雑所得計算表

〈省略〉

〈省略〉

別表三

菊井町支店用地関係取引収支表

一、総収入 六〇、九一七、〇五〇円

二、総支出 六〇、九三九、二〇〇円

三、支出内訳

〈省略〉

〈省略〉

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